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三軒茶屋HEAVEN'S DOOR
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別れのバレンタイン

う~む、バレンタインか。
チョコレートを作って売ってる連中の陰謀とは分かっていてもやっぱり女の子からチョコを貰えるのは嬉しいもんだ。
それも手作りだったりすると尚更嬉しいよね。
手作りだとやっぱり気持ちが籠もってるみたいな気がするもんな。
古いタイプの人間というカテゴリーにおそらく組み込まれてしまうんだろうと思われる俺からすると、バレンタインとかクリスマスなんていう枠を取っ払っても、どうしてもプレゼントというと男性が女性に贈る物というイメージが強い。
男尊女卑とかそういうのじゃなくて、女性は男が守ってあげるのが当たり前みたいな感覚だ。
丁度今から30年前に俺は最初の結婚をしたんだが、僅か3年余りの結婚生活の終止符を打つ切欠は、奥さんからのプレゼントだったんだ。
当時、小さいながらも飲食店を経営していた俺達は、繁盛していた勢いでもう1軒店を出す事にしたんだ。
そして、多額の借金をした事もあって、とにかく二人で我武者羅に働いたんだ。
しかし、その我武者羅も俺にとってはギリギリ、奥さんにとってはとっくに限界を超えていたのかもしれない。
お互いのストレスは、当然ピークに達していたと思う。
だけど奥さんは、俺よりずっと人間の出来た人で、辛い表情を俺の前で見せる事は全くと言っていい程無かったんだ。
そして、3年目のバレンタインデーがやってきた。
彼女は、とにかく嬉しそうな顔で俺にリボンの掛かった小さな箱を手渡してくれた。
開けてみると高そうなライターが見事な光沢を放っているじゃないか。
複雑だった。
バレンタインのプレゼントは嬉しいが、それよりも多額の借金を抱えている身でありながら何でこんな高い物を買うんだという怒りがこみ上げて来てしまったんだ。
そして、その怒りは口よりも先に行動に出てしまった。
もしかして殴ったのかって?
そうじゃない、もっと酷い事をしたんだよ。
ライターを思い切りぶん投げたんだ。
悲しいよな、彼女からしたら。
多額の借金を抱えていたという負い目は差し引いても男としては、絶対に許されない行為だと思う。
そして、これを切欠に彼女は出て行き、離婚へと至ったわけだ。
俺が彼女の立場だったら、やっぱり抑え切れないだろうなと思う。
これだけ頑張ってきて、やっと二人だけの幸せの時間に浸れると思ったらこの仕打ちだもんな。
とにかく酷い男だったんだよ、俺は。
今は、何処にいるのかも分からない。
逢いたいというわけじゃないが、もし何処かで出会う事があったなら一言謝りたい。
俺が悪かったと。
俺のせいで、もしも彼女の胸に棘が刺さったままなら抜かせて欲しい。
毎年、バレンタインデーに蘇る遠くて悲しい想い出だ。
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