十数年前に毎月のように出演し、誰もが認めるヘブンスドアのエース的存在だったバンドが来週某所でライブを行う事になった。
現在はトリオバンドだ。
でも、当時は4人だった。
ヴォーカリストは不慮の死を遂げたんだ。
亡くなる2ヶ月前に俺は彼女に会っている。
新宿のでかいハコで俺が主催したイベントに彼女達も出演する予定だったからだ。
その予定で当然彼女達も会場に来ていたんだが結局出演は出来なかった。
ヴォーカルのコンディションが著しく悪かったからだ。
どんな時でもライブを一番大切にしていた彼女が会場に来て今楽屋に居るのにステージに立てないと言う。
それはライブを大切にしていたからこその結果だったと思う。
ライブを大切にしていたのならコンディションを整えておくのが当たり前だろうって?
そうだよ、それが当たり前だ。
ましてやそこに居るのに出演出来ないって、ミュージシャンとして普通ならそれは許されない事だと思う。
だけど、自分の中で物凄い葛藤があったのは事実だけど俺は許した。
ここで無理矢理ステージに上げたら彼女は終わってしまうかもしれないという危機感を感じたからだ。
勿論、会場はブーイングの嵐だったが天才少女を見殺しにする事は出来なかったんだ。
足を運んでくれたお客さん達には今でも本当に申し訳ないと思っている。
俺の心はズタズタではあったが後悔は不思議と無かった。
そして、その2ヵ月後に彼女と電話で話をする事が出来た。
どうなの、調子は?
うん、だいぶいいよ。
話に内容なんか殆ど無かったような気がする。
只単に声を掛けたかったというか俺の方が声を聞きたかったのかもしれない。
いつも自分なりにアドバイスをしていた積りなのに結果的に力付けられるのは俺の方だったような気がする。
人に何かを与えるのが使命のようなそんな人だった。
随分元気になってはいたがこれが彼女との最後の会話になってしまった。
彼女が亡くなったという知らせを受けたのはその数日後だ。
残念としか言いようがない。
ロック界の大きな星を掴みかかっていたのに。
俺は今でも彼女達に最大限の尊敬と感謝の気持ちを持っている。
彼女達がどんどん大きくなり世界中のファンを唸らせた事は俺にとっても誇りだ。
バンドは誰の物でもなくバンド自身の物でしかないと思う。
だけどそのバンドと心を一つにする事は出来る。
やっぱり音楽って凄いよね。
亡くなった彼女は今でもそんな事を俺に教えてくれる。
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