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送り火

地域によって違いは、有るが一般的には、13日から15日は、お盆である。東京でも昔は、どこの家でも13日になると迎え火を焚いて祖先の霊を迎え入れる儀式をしたものだ。子供のころは、これが何の為の行為なのか理解出来なかったし親戚中が集まって祖先を迎えるって言ったってただの飲み会じゃないかと思っていた。

数年前に父が死んだ。俺にとって父親の存在は、とてつもなく大きな壁だった。俺のとる行動は、全てと言っていい程、否定され嗜められて来た。そして、俺は、この大きな壁を超える為に16才で家を出て家族と離れて暮らす決意をしたのだった。音信不通の状態を4年間過ごし、俺は、実家に帰った。激しく叱り飛ばされる事を予想していたが父は、大きな器で迎え入れてくれた。この時、初めて家族の大切さを知り感謝の気持ちで全身が震えた事を今でもはっきり覚えている。そんな父が10年程前から家と病院を行き来する生活になった。見舞いに行く度に父の体が小さくなって行くのが分ったが俺には、何もする事が出来ない。既に実家には、帰れない程、病が悪化していた頃見舞った俺に父が言った一言「ありがとな。」鉛の固まりがのしかかって来た様に俺は、動けなくなってしまった。それは、こっちの台詞じゃないか!俺だって言いたいんだ。だけどそれを言ったらまるでこれが最期の別れみたいじゃないか!  父と会話をする事が出来たのは、これが最後だった。

昨年、夢の中に父が現れた。実際には、数秒間の再開だったのかも知れないが夢時間では、数10分有ったと思う。ハッと飛び起きた俺は、夢か現実か確かめる為に煙草に火を付けてみた。冷静に考えるとその日が8月15日だった事に気が付き、ああ、来てくれたんだと有り難い気持ちで一杯になった。そして、来年こそは、夢の中でありがとうと言わせて欲しいと思いながら送り火代わりの煙草の火をゆっくり消した。
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