俺が住んでいる街に今年時を同じくしてそれも隣同士に中華料理屋が出来たんだ。一軒は餃子で有名なチェーン店の王将、もう一軒は如何にも苦労人的中国人夫婦が細々と始めた陳厨房って店だ。俺は自分の行動範囲内に食い物屋が出来ると必ず一度は訪れ我流なりの採点をし80点以上なら常連客になるという自己暗示をかける習性が有る。両者共、開店から約半年が経過した今現在、明暗は大きく分かれた。王将は若者客を中心に常に満員、行列が出来ている事も珍しくはない程だ。そして陳厨房はというと常に閑古鳥が鳴いている状況だ。何故こんなにも差が出来てしまったのか俺なりに検証してみる事にする。先ず、店構えだが王将は皆も知っている様に非常に明るいのだが陳さんの方は薄暗い感がある。働いている人達の様子はというと王将は活気は有るのだが常にばたばたしていてプロの仕草には到底見えないのに対して陳さんは自信と誇りが明らかに見える。料金はどちらもリーズナブルで大差無い。そして最後に一番肝心な味はというと王将ははっきり言って大雑把で何処にでも有るどうでも良い様な個性の欠片も無いが特別不味いという訳でもない如何にもチェーン店丸出しの愛の無い味。陳厨房はどうなのか。俺は初めての店に入った時にオーダーするものは決めている。中華屋なら麻婆豆腐か広東麺だ。何故かと言えばこれを食ってみればその店のレベルがほぼ分かるからだ。麻婆豆腐は一見簡単な料理だと思われがちだが味の方向性が非常に現れる品で腕の善し悪しもはっきり出るので判断材料としては非常に好都合だ。広東麺の方は食材の選び方が見て取れるのも然りだが具と麺とスープの個々の出来ばえに加えその3つが混ざり合った時のバランス感とも言えるセンスが如実に表れるからだ。このバランス感っていうのは料理を作るうえでの非常に大きなポイントだったりするのでそれが分かりやすい広東麺っていうのは外せないのだ。陳厨房では迷わず広東麺を頼んでみた。一口スープを飲んでみた瞬間、これはやばいと思ってしまった。俺は一気に完食した。最高に美味い。今迄食った広東麺の中で一番美味いかもしれない。実は昨日も陳さんの店に行って来たのだが相変わらずお客さんが入っていない。入り口をもうちょっとぱっとさせるだけで繁盛店になるのは見えているのに。だが俺はこういう店が大好きだ。解ってくれる人だけが来てくれれば良いという姿勢は商売としては如何な物かとは思うが既に常連客の一員になった俺としては味の解らん奴は来るんじゃねえと思ったりして優越感と迄はいかないが常連の誇りみたいな物を感じたりしてしまうんだ。俺自身が頑固で我が儘で敢えて損な道を選ぶ堅物だと自他共に認めているので同じ空気を感じる陳さんには頑張って欲しいと陰乍ら応援したいと思っている。自分自身に対する自信と誇りをしっかり持っている人が俺は大好きなんだ。
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