世界的に有名な日本の登山家が東京の奥多摩で熊に襲われ顔面70針、上腕20針を縫う程の重傷を負うというニュースが流されていた。この熊は、小熊を連れた母親熊だったらしく出会い頭に人間に遭遇し、小熊を守ろうとする防衛本能から自ら攻撃して来たのではという事らしい。熊というのは、なんとなく凶暴なイメージが有るが、元来人間を襲ったりする様な動物では無いそうだ。母熊としても我が子を守る為に必死だったのだろう。
実は、先日、俺もこれと同じ様な出来事に関わってしまった。
その日のライブも終盤に差し掛かった頃、なにやら店内で揉め事が起っていたらしく、うちのスタッフがなんかやばそうですと言うので店内を見渡すと2人の女性が激しく言い争いをしている。お互いに今にも殴り掛からん勢いだったので泥酔していた方の女性を取り敢えず半ば強引だったかも知れないがホール内から連れ出した。そして激しく俺に食って掛かって来たので何とか落ち着かせようとしていたのだが、そんな矢先にもう一人の女性も後を追って怒鳴り込んで来たのだ。話を聞くとこの女性は、親子連れで娘さんが泥酔した方の女性に暴力を振るわれたらしいのだ。喧嘩の仲裁役は、今迄何度も経験して来たがこの時のお母さんの勢いは、俺も思わずたじろぐ程のものだった。普段は、優しいお母さんなのだろうが、やはり母は強しだ。あの怒りの炎に満ちた眼光で射すくめられたらどんな屈強な男でも太刀打ち出来無かっただろう。娘さんというのは、未だ中学生位でライブハウスに来たのも今回が初めてだったそうだ。泥酔女性の方は、既にライブハウス慣れしていて大騒ぎするのが大好きなタイプでそれは良いのだがおとなしく観ていた少女に無理矢理自分の楽しみ方を押し付けようとしてこういう結果になったようだ。
俺は、怒りの形相のお母さんを宥めながら、この状況下で不謹慎かも知れないが我が子を守る為ならなり振り構わぬこんなお母さんに守られている娘さんは、なんて幸せなんだろうと思ってしまった。
帰り際に頭を下げた俺にお母さんのありがとうと言う一言がしっかりと心に届いた。
久しぶりに一人暮らしをしている母に電話をしたくなった。
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