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三軒茶屋HEAVEN'S DOOR
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俺流の餞別

数年うちの店で働いていたバイトの男の子が明日で辞める事になった。
入った当初はこれじゃあ何処で何やっても通用しないぜと言い切れる程頼りない奴だった。
それが彼なりに色々努力したんだと思うがそれなりに成長してこの店を出て行く事になった。
俺としてはまるで卒業生を送る先生の心境だ。
普通ならこうゆう時は盛大に送別会でもやって派手に送り出すところなんだろうが俺は敢て何もせずに普段と何も変わらぬ涼しい顔で過ごす事にしている。
傍から見れば何て冷たいんだろうと思われるかもしれない。
だが、出て行く人間が未だ若い子だった場合はこれが俺の経営者としてのやり方なんだ。
彼に関しても言える事だが本人はこれから数々の難関を乗り越えて行かなければならない筈だ。
苦しい時、辛い時は数限りなくやって来る。
そんな時に常に前を向いて壁を乗り越えるにはどうすれば良いのか。
後ろを振り返っても誰も助けてくれないと開き直る事が大切だと俺は思うんだ。
誰かが助けてくれるという意識があれば人は敢て難関を乗り越えようとはなかなか思わないものだ。
それなら現状維持でもいいやとなってしまうのが大方の人間のする事だと思う。
そんな時に頑張れるかどうかでそいつが凡人として人生を送るか自分の殻を破って一回り大きな器になれるかの分岐点になるって事が多分にあるんだ。
人間誰しも大きな可能性を持って生まれてきている筈なんだ。
それを皆が花開かせる事が出来るという物ではない。
それは何故かと言うと答えは簡単で途中で諦めてしまうからだ。
じゃあ、どうして諦めてしまうのか。
それは楽な道が他に有るからなんだ。
今回辞めていく子は新たな道を見つけて其処へ進みたいが為に出て行く事を決意した。
だが、必ず現実の厳しさにぶち当たる筈だ。
そして苦しくて仕方がない時にもしうちの店に戻ってくればいいやなんてよぎる事があれば彼は間違い無く挫折するだろう。
だからそんな場所はもう無いんだと突き放す事が俺流の愛情表現であり餞別なんだ。
おそらく本人にこの気持ちは届かないと思う。
でも10年後、20年後に振り返った時に何となく気付くかもしれない。その程度で構わないし一生気が付かなくても俺は満足だ。
縁有ってうちの店に辿り着き数年間で得るものは得た筈だ。
それをどうやって昇華させるかはあくまで本人次第という事だ。
今度会う時は数年後、数十年後、いや、もう二度と会う事は無いかもしれない。
自分の人生を生き切れ!
俺が言いたいのはそれだけだ。
とっとと出て行きやがれ!
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