もう随分前からずっと出演してくれているHというバンドがワンマンライブを行った。
今では年に1回しかうちの店に出る事はない。
何故かと言えば完全なキャパオーバーになってしまうからだ。
彼等にとってのステージは既にライブハウスの域を超えてしまったという事だ。
なのに年に1回は出演してくれるところが嬉しいじゃないか。
そんな彼等も長い下積み時代を経験している。
お客さんが殆ど居ない状態のライブが何回もあったのを憶えている。
そんな時に勿論、悩み苦しんでいたのは当然だがだからといって彼等は決して諦める事をしなかった。
そして、いつもそんなライブの中からでも何かを必ず掴んで帰っていったような気がする。
ライブの後にはバンドとの清算というものがある。
だが、彼等との清算は異様に長かった。
いや、実際の清算に費やす時間は短いんだがその後のミーティングが長いんだ。
俺も彼等をこんな小さな場所に閉じ込めておくのは罪だと思ったし飛び出して行って欲しいと願っていたのでとことん付き合う事にしたんだ。
そんな中で彼等が一つ要望を出したのを俺は今でも覚えている。
自分達が此処でワンマンをやる時が来たら必ず打ち上げには来てくれと。
俺はいつも仕事が終わるのが夜中を通り越して朝に近い。
だから打ち上げに誘われても殆ど行く事が出来ないんだ。
俺からも要望は出した。
人気が出ても決して調子に乗るな、調子に乗ったらそれが終わりになるからと。
彼等は未だに俺との約束を守ってくれている。
俺も彼等との打ち上げは必ず行くようにしている。
ライブハウスの人間は決して勘違いしてはいけない。
バンドはライブハウスのものじゃない。
バンドはバンドのものなんだ。
だからそのバンドが大きくなった時、俺達は送り出してやらなくてはならない。
バンドが大きくなるという事はそのバンドに力があったからにすぎない。
たとえ助言があったにせよそれを受け入れるか無視するかもバンドの力なんだ。
だから人気バンドが生まれたとしてもそれはライブハウスが偉いわけでも何でもないんだ。
俺達は常にイーブンな関係でなければならない。
上も下もないんだよ。
これを誰に向けて言っているのかは言われている側は分かる筈だ。
ロックの原点は何だ?
怒りと反発か?
それは表に出ているものだろ?
そうじゃなくてそのもっと奥にあるものだよ。
その奥には愛しかないんだよ。
それがあるから俺達はイーブンでいられるんだよ。
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