今月で三茶に店を出して20年になる。
最初は右も左も分からない町だったが今では一応このあたりの顔的存在になれたような気がする。
皆は当然此処にうちが店を出す前にどんな場所だったか知らないと思う。
商店街の真ん中でライブハウスが出来るくらいの大きさでビルの地下となると職種はかなり限られるよな。
居酒屋なんかが妥当な線だと思うが実は此処はプールバーだったんだ。
えっ?此処で皆泳いでいたのっておいっ!
それは違うプールだろ!
プールっていうのはビリヤードのテーブルの事だ。
要はビリヤード台を置いているバーって意味だよ。
当時はその数年前に大ヒットしたハスラーっていう映画のせいでそこら辺何処へ行ってもプールバーだらけだったんだ。
20年前っていうとその大ブームの終焉の頃だ。
店を出すかどうかを決める前っていうのは当然立地調査をする事になる。
調査って言うと何か偉そうだが実際は俺が三茶に通い詰めたってだけの話だ。
初めて店に足を踏み入れる時に俺の胸は期待と興奮で高まった。
だが、しかし,,,,,,,,,,,,,,。
死んでいる。
完全に空気が死んでいる。
過去に此処で事故でもあって死人が出たんじゃないかと思わせるくらいの不吉な静けさだ。
お客さんは誰も居ない。
居るのは幽霊のように透けて見える程存在感の無い店員が一人だけだ。
取り敢えず様子を見てみる事にする。
1時間しても誰も来ない。
2時間、3時間、4時間。
う~む、幽霊と二人きりで居るには4時間が限界だ。
これを何日も続けてみたんだがレジの横にある伝票刺しにレシートが刺さっていたのをとうとう一度も見る事は無かった。
これから始めようとしている店がライブハウスだから全然関係無いと言えば無いんだけどやっぱり賑わっていれば人の居やすい場所っていう好感も持てるじゃないか。
それが完全無欠の閑古鳥じゃあ縁起が悪いよ。
外に出て近所のお店を探索してみると三軒茶屋のイメージとしてあるちょっとお洒落な町というのは大嘘で単なる何処にでもある下町風景だし。
益々不吉な予感がしたものだ。
こんな所にライブハウスを作っていいものだろうかと一瞬迷いが生じた。
だが、俺が動かせる金額でライブハウスを作れるのは東京中探して此処だけだったんだ。
それくらい金が無かったんだ。
っていうか殆ど一文無しだし。
持っていたのは気合と根性だけだ。
だから当然100%借金という事になる。
滅茶苦茶過ぎて笑っちゃうぜ。
銀行も俺の口から出まかせを信じて何千万もよく貸してくれたと思うよ。
俺が銀行マンなら絶対貸さないけどな。
何処から弾き出したのか分からないような都合のいい数字を並べて企画書作ってこれだけ儲かりますから大丈夫ですって殆ど詐欺だもんな。
まぁそれでも結果的にちゃんと返せたから良かったよ。
ラッキーだったな。
でも、俺としては100%返す自信があったんだ。
根拠なんて何も無いよ。
この先は長くなりそうだからまた明日話すよ。
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