まだ小雨交じりの午前3時。
人気の無い薄暗い裏道を歩くと2つの人影が見える。
何か様子が変だ。
少しづつ近付くとそれが男女なのが分かる。
傘も差さず佇む男と傍らに崩れ落ちたように跪く女。
女は俺の存在など眼中に無いのか激しく泣きじゃくっている。
いつか見た光景だ。
愛し合っていた筈の二人に別れの時が来てしまったのだろう。
だが男女の情は易々とは断ち切れない。
楽しかった日々が蘇る。
だが幸せの日々はもう戻らない。
もう一度やり直せるものなら全てを投げ打ってもあの日に帰りたい。
そう願う女。
将来の互いの幸せの為にここは振り切るしかないと心に誓った男。
辛いだろうな、二人とも。
その横をさり気なく過ぎ去ろうとする俺の心にも冷たい雨が沁みるようだ。
どんなに愛し合った恋人同士にも長年連れ添った夫婦の仲ですら必ず別れは訪れる。
別れは生き別れもあれば死に別れもあるからだ。
愛する人との別れほど辛いものは無い。
なのに決して逃れる事の出来ないのが人の性というものだ。
何故なんだ。
どんなに善行を尽くし世の為、人の為と身を捧げても付き纏い苦しみを与え続けるこの別れとは一体何なのだろう。
愚かな人間に科せられた重い罰なのだろうか。
だが人間は忘却という能力も授かっている。
あの二人も時が経てばそういえばあの時あんな別れもあったとしみじみ想う時が必ず訪れる。
苦しみや悲しみも無に帰るという事か。
人生は儚い夢の中の一瞬の出来事かもしれない。
天地創造の神が居るとするなら俺達の一生はほんの瞬き程度のものなのだろう。
ならばその一瞬の時を如何に生きるべきか。
冷たい雨の中を俺は歩き続けるしかなかった。
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