高円寺の商店街にある居酒屋が火事になり4人が死亡したという。
俺は昔、高円寺に住んでいた事がありとても好きな街なので少し気になっていた。
そしてその居酒屋って何処なんだろうとネットでこの火事に関するニュースを幾つか見ていると、ん?まさかとは思ったが俺が昔バンドマン達とよく行った石狩亭じゃないか!
残念だ。
あそこは良い店だったのに。
当時、高円寺の居酒屋は楽器を持って入って行くのを嫌う店が多かったんだ。
入店拒否の所も何箇所か有ったと思う。
だけどここはいつもO.Kだった。
別にバンドマンに特別親切という訳じゃあなく誰でも分け隔てなくという言ってみれば極当たり前のサービスをしていただけなんだけどね。
ここに行ったら皆必ず凍ったジョッキで出される生ビールを頼むんだ。
店員はいつもぶっきらぼうだったがこのビールの美味さで帳消しだった。
生れて初めてチゲ鍋を食ったのもこの店だった。
ああ、そういえば蛙を初めて食ったのもここだったっけ。
あそこに行くと大抵知った顔がいたりして好きな店だったんだけどなぁ。
過去を振り返ってあの頃は良かったとか想い出に酔いしれるなんていうのは俺の趣味じゃないがこうやって自分の好きだった場所で事件が起き、尚且つ人が何人も死んだなんて事を聞かされると残念で仕方が無い。
今から30年程前にHという後輩がいた。
そいつはいつも俺を頼って色々な相談事を持ちかけてきた。
或る日Hは当時俺がやっていた小さな店に彼女を連れてやって来たんだ。
そして結婚する積もりなんだと言う。
とてもお似合いなカップルではあるが二人は未だ10代だ。
俺が16歳から同棲をしていた事なんかも知っている彼は当然俺は賛成すると思っていた筈だ。
しかし、俺は未だ早いんじゃないのかと諭した。
それは二人が親の脛齧りのままだったからだ。
年上なりに世の中そんなに甘くないぞって事を言いたかったんだろう。
それから数週間後に訃報は届いた。
奴は警察に追われパトカーとのカーチェイスの末に高速道路の足場であるコンクリートの柱に激突して即死したんだ。
そしてその数日後に彼女は地下鉄のホームから身を投げた。
何の脈絡も無いが今回の石狩亭の火事の事を知ってそんな悲しい過去を想い出してしまった。
楽しいイメージが一転して最悪な状況を迎えた部分に共通点を感じてしまったのかもしれない。
もしあの時俺が二人の結婚に反対していなければ結果は違っていたんだろうか?
奴が警察に追われる様な事をしたのは俺の一言のせいなのか?
暫く考えたが答えなんか出る筈がない。
だって二人はもう死んじまったんだから。
そういう結果が出ちゃったんだから。
死んだ後でああだこうだって考えたってあいつ等は帰って来る訳じゃないんだから。
過去が楽しければ楽しい程、悲惨な結末を迎えた時の悲しみは大きい。
だが、過去を引きずって生きては駄目だ。
そういう生き方は人間を駄目にする。
そんな重たいものをぶら下げてたら何処へも行けやしないよ。
だからといって過去なんか放ったらかしておけばいいという意味じゃない。
その時々でけじめを付ける事が肝心なんだ。
けじめを付けたら思い切ってスパッと切り離す。
それが常に前を向いて生きる事の術だと思う。
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